陽子線治療は、正常組織への照射範囲をX線治療よりもさらに減らすことが可能になり、過去15年の間に、世界中で急激にその需要が増加しつつあります。まず、限局性の小児がんにおいて、陽子線治療は実質的に世界の標準治療のひとつとなり、わが国でも2016年4月から保険収載となりました。 2018年4月からは、限局性の骨・軟部腫瘍、頭頚部腫瘍の一部、前立腺がんに関しても、陽子線治療の保険収載の適用が広がりました。2022年4月からは手術不能限局性膵癌、肝細胞癌、肝内胆管癌、大腸癌術後再発も保険適用となりました。 その他の疾患・病態に対しても、先進医療の制度と日本放射線腫瘍学会の主導のもと、全ての陽子線治療センターが統一治療方針に則って、前向きの観察研究や介入研究を進行中です。本陽子線治療センターも、その一員です。
北海道大学病院の陽子線治療センターは、世界のトップを目指した先端的研究推進のための「最先端研究開発支援プログラム」のご支援を受け、2014年3月に開設しました。次世代型のスポットスキャン法を用いた陽子線治療の先進医療を開始し、その後、体内の臓器の動きや位置や大きさによって従来は正確な治療が困難であったがんに対しても、世界で初めての動体追跡スポットスキャン陽子線照射技術を用いて治療を開始しました。さらに、2015年からは、強度変調陽子線治療(IMPT)を開始しており、従来のX線治療の最先端である強度変調放射線治療(IMRT, IMXT)を凌ぐ、正常組織の防護を可能とした放射線治療を達成しています。 また、動体追跡用のX線管を利用したコーンビームCTを用いた位置決めを可能とし(この組み合わせはX線治療を含めて世界で初めてです)、最先端のリアルタイム画像同期陽子線治療装置として世界中から注目を集めております。
装置は極めて順調に稼働しており、保険診療や先進医療、臨床研究が行われております。一方で、国内外の患者さん等の治療にも自由診療の枠で対応しております。また、世界をリードする陽子線治療措置として国内外から多数の見学者・研修者を迎えてきました。 北海道大学病院型の小型陽子線治療装置は、現在メイヨークリニック(ロチェスター、アリゾナ)、セントジュード小児研究病院、ジョンスホプキンス大学、ナヴァラ大学マドリード病院、京都府立医科大学付属病院、湘南鎌倉総合病院などで稼働中です。シンガポール国立がんセンター、香港養和病院では導入予定とのことで、さらにネットワークが広がりつつあります。
北海道大学病院では、陽子線治療をご希望の方に対しても、患者さんにお勧めする治療法の選択肢は放射線治療医以外の各臓器・疾患の専門医を加えた検討会(キャンサーボード)で一例一例、慎重に決定しています。もちろん、ご本人・ご家族への詳しい説明と同意(インフォームド・コンセント)の上で、病院全体で最適と考える治療をさせていただきます。決して、陽子線治療センターの医師だけでの独善的な治療方針の決定は行いませんので、ご安心ください。陽子線治療を選択された場合には、医師、医学物理士、線量測定士、診療放射線技師、看護師、事務職員など、多職種がチームワークを組んで、治療前・中・後を通して、患者さんに最高のクオリティー・オブ・ライフをお届けできるよう、努力します。 3歳以下の患児には、必要に応じて、麻酔科、小児科、脳神経外科などのサポートで、安全な挿管下・全身麻酔下での治療も行っております。
北海道大学病院は、患者さんと医師にとって最先端医療の砦であるとともに、常に現状の課題を見つめ、次世代のがん治療法の発祥の地となるべく、今後とも、常に前進して参ります。