司法精神医療センター

北海道大学病院附属司法精神医療センターは北海道初の医療観察法指定入院医療機関として令和4年4月1日に北海道大学病院の分院として開設されました。心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った対象者に対して、多職種チームによる医療を継続的に行うことで、病状を改善し、同様の行為の再発防止を図り、社会復帰を促進することを目的としています。さらに、指定入院医療機関で実践する精神医療を一般精神医療にも波及させ、精神医療全体を底上げすることも意図されています。指定入院医療機関を大学病院が運営することは全国初であり、司法精神医療を担う人材の育成や研究の推進という使命が課されています。

センター長よりご挨拶

北海道大学病院附属司法精神医療センターのホームページをご覧いただきありがとうございます。

当センターは北海道初の医療観察法指定入院医療機関として令和4年4月に開院いたしました。平成17年に医療観察法が施行されて以来、北海道に指定入院医療機関が存在しない状況が長らく続いており、この状況を解消することは北海道大学精神医学教室の小山司前教授の時代から現在の久住一郎教授に引き継がれた長年の悲願でした。平成30年に北海道大学病院に指定入院医療機関が設置されることが決定してから準備に邁進してきました。開院にあたり、重大な社会的使命を持った当センターを運営していくことに身が引き締まる思いです。

北海道に指定入院医療機関がないことで医療観察法の対象者やそのご家族、道外の指定入院医療機関、支援者の方々などには大変なご負担があったことと思います。当センターの設置にご尽力いただいた方々に心より感謝を申し上げるとともに、北海道初の医療観察法病棟をしっかりと運営していく決意を誓いたいと思います。

当センターにはさまざまな使命や役割があると思いますが、何よりもまず患者さんを大切にして、安心感を持ってもらえる場にしたいと思います。医療観察法の対象者は重度の精神障害に罹患したことに加え、心神喪失·耗弱の状態で重大な他害行為を起こしたという事実を背負うこととなり、いわば二重のハンディキャップを負わされた方々です。統合失調症の患者さんが大部分ですが、発達障害や逆境的小児期体験を有する例が非常に多く、これらの影響で不適応を繰り返してきたり、自尊心を傷つけられ続けてきたことにより、自分自身を大事にする経験をしてきておらず、基本的信頼感を元に周囲に相談することが苦手な人が多いように思います。このような対象者が安心できて、人に対する信頼感を育んでいけるような病棟を目指したいと考えています。

一方で、対象者には家族がいて、対象行為には被害者がいます。対象行為により大きな影響を受けた周囲の人々、社会があります。対象者の治療·ケアを第一に考えることはもちろんですが、被害者·家族·社会の視点を忘れずにいたいと思います。対象者に対する説明と理解に努めるだけでなく、被害者や社会に対して説明のできる恥ずかしくない実践をして行かなければならないと考えています。

また、当センターは大学病院が運営する全国初の指定入院医療機関であり、人材育成や研究の推進という使命が課されています。医療観察法医療に留まらず、矯正精神医療との連携や精神鑑定の質の向上などにも力を入れ、司法精神医療の中核となれるよう取り組んでいきたいと考えております。

最後に、医療観察法医療は指定入院医療機関の中で完結されるものではありません。退院がスタートであり、地域のさまざまな支援者の方々との連携が欠かせません。今後、多くの方々のご支援が必要になるものと思いますので、ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

センター長  賀古 勇輝

医療観察法とは

図1 医療観察法の仕組み(厚生労働省ホームページより)

医療観察法の正式な名称は「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」であり、心神喪失もしくは心神耗弱状態で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、 強制性交、強制わいせつ、傷害(傷害を除いて未遂を含む))を行った人に対して、適切な医療を提供し、症状の改善により再他害行為を防止し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。厚生労働省と法務省共管の法律で、平成15年7月に成立·公布され、平成17年7月に施行されました。

図1の模式図で黄色に塗られているのが医療観察法に関する部分です。重大な他害行為により逮捕·送検された後、検察官が心神喪失等を認定して不起訴とするか、裁判で心神喪失が認定されて無罪となるか、心神耗弱で執行猶予となるなどした後に、検察官が医療観察法の申し立てをします。その後原則2ヵ月間、医療観察法鑑定入院機関で精神鑑定が行われます(北海道大学病院精神科も医療観察法鑑定入院機関です)。この鑑定結果を踏まえて地方裁判所で審判が行われ、裁判官と精神保健審判員(精神保健判定医から選出)の合議制で処遇が決定されます。

 

図2 医療観察法の地方裁判所の審判結果(厚生労働省ホームページより作成)

審判の結果は、これまでの累積では図2の通り約3分の2が入院決定され、13%が通院決定、16%が不処遇(医療観察法での医療は行わない旨の決定)等となっています。入院もしくは通院決定された後は、指定医療機関で医療が行われます。さらに法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官が退院後の生活環境の調整を行ったり、通院医療の処遇実施計画書を作成したりします。

図3 医療観察法指定入院医療機関(厚生労働省ホームページより作成・追記)

指定入院医療機関は図3のように令和3年度までは全国に33施設(計827床)が設置されていました。国の当初の目標である800床は越えていましたが、北海道や四国には設置されておらず、他にも人口の多い兵庫県や福岡県、宮城県などにもありません。このため北海道帰住地の対象者は全国各地の指定入院医療機関に移送されて入院治療が行われていました。これまで北海道に指定入院医療機関がないことで対象者や医療者に移動の負担がかかり、家族の面会も困難になるなどさまざまな悪影響を及ぼしていました。

 

図4 医療観察法入院患者数の疾病分類(主診断)(厚生労働省ホームページより作成)

入院患者の診断分類は図4に示すように、ICD-10分類でF2統合失調症ほかが8割以上を占めており、F3気分障害、F1精神作用物質による障害、F0症状性·器質性精神障害等がわずかずつとなっています。

図5 医療観察法入院患者の対象行為(重度精神疾患標準的治療確立事業のデータより作成)

これまでの累積での入院患者の対象行為については図5に示すように、傷害が35%と最多で、殺人15%と殺人未遂18%が合わせて約3分の1、放火が2割、強盗が未遂も合わせて4%、強制わいせつが未遂も合わせて3%と続いています。

指定入院医療機関からの退院は、病院管理者が申し立てを行い、地方裁判所での審判を経て決定されます。医療観察法の通院処遇に移行することが大部分ですが、通院を経ずに医療観察法の処遇終了となる場合もあります。通院処遇は指定通院医療機関で行われ、原則3年間ですが、必要に応じて最長5年間まで延長されることがあり、逆に3年を待たずに処遇終了される場合もありますが、いずれも保護観察所長の申し立てにより地方裁判所での審判で決定されます。指定通院医療機関は令和3年4月時点で全国に3,854ヵ所あり(病院と診療所では676ヵ所)、北海道には100ヵ所(病院と診療所では55ヵ所)あります。北海道大学病院精神科も指定通院医療機関になっており、通院処遇の対象者を診療しています。医療観察法の処遇終了後は、一般の患者と同様に精神保健福祉法の中で精神科医療、精神保健福祉が行われます。

詳細は厚生労働省のホームページをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/index.html

施設概要

令和3年12月3日 竣工
令和4年4月1日 稼働開始

建物:3階建て

  • 1階:スタッフルーム、作業療法室、集団療法室、カンファレンス室、マイルーム(宿泊訓練室)、屋外運動場、菜園、会議室、厨房など
  • 2階:病室(運用病床20床、予備病床3床、全室個室)、スタッフステーション、ホール、歯科診療室、理容室、診察室、多目的処置室、ジムコーナー、屋外コーナーなど
    • 急性期ユニット:5床(うち準保護室2床)、PICU(保護室)1床
    • 共用ユニット:4床(うち身体障がい者用1床)
    • 回復期ユニット:8床(うち身体障がい者用1床)
    • 社会復帰期ユニット:6床
  • 3階:体育館

スタッフ

  • センター長:賀古 勇輝
  • 副センター長:髙信 径介
  • 看護師長
  • 副看護師長:2名
  • 医員:1名
  • 看護師:30名(師長·副師長も含めて)
  • 精神保健福祉士:2名、精神科作業療法士:2名(うち1名公認心理師資格有)、臨床心理士:1名(公認心理師資格有)、薬剤師:1名
  • 事務員:2名

担当医師

職名

氏名

専門分野

資格

所属学会

センター長

准教授

賀古 勇輝

(かこ ゆうき)

司法精神医学

統合失調症

気分障害

摂食障害

認知行動療法

医学博士

精神保健指定医

精神科専門医・指導医

臨床心理士

精神保健判定医

DPAT*北海道統括・先遣隊隊員

精神腫瘍学の基本教育に関する指導医

日本精神神経学会代議員、日本司法精神医学会評議員、日本心身医学会代議員、日本精神科診断学会評議員、日本精神病理学会評議員、日本摂食障害協会参与

日本統合失調症学会、日本社会精神医学会、日本総合病院精神医学会、日本児童思春期精神医学会、日本摂食障害学会、日本認知療法・認知行動療法学会、日本サイコセラピー学会、法と精神医療学会、集団認知行動療法研究会、心理教育・家族教室ネットワーク

副センター長

助教

髙信 径介

(たかのぶ けいすけ)

司法精神医学

自殺予防

統合失調症

医学博士

精神保健指定医

精神科専門医・指導医

精神保健判定医

DPAT*先遣隊隊員

日本精神神経学会、日本自殺予防学会、日本司法精神医学会、日本犯罪学会

医員

直江

(なおえ りょう)

臨床精神医学

日本精神神経学会

*DPAT:災害派遣精神医療チーム(Disaster Psychiatric Assistance Team)

医療観察法入院医療について

裁判所による入院および退院決定

前述のように医療観察法の入院は地方裁判所での審判によって決定されます。医療観察法の対象となるには、第一に対象行為時に心神喪失·耗弱の原因となった精神障害と同様の精神障害を有していること(疾病性)、第二に精神障害を改善するために医療観察法による医療が必要であり、精神障害が治療可能性のあるもの(治療反応性)、最後に社会復帰の妨げとなる同様の行為を行う可能性があること(社会復帰要因)の3つの要件が全て揃っている必要があります。この3要件が揃い、さらに入院による治療が必要と判断されると入院が決定されます。

入院後は概ね6ヵ月間毎に指定入院医療機関の管理者が入院継続を申し立て、地方裁判所の審判によりその可否が判断されます。退院についても、指定入院医療機関の管理者もしくは対象者本人が申し立てを行い、地方裁判所の審判により決定されます。

一般精神医療では、措置入院や医療保護入院などの非自発的入院は精神保健指定医が判断しますが、医療観察法入院は入院、退院ともに司法機関が判断するという大きな違いがあります。このため、医療者は対象者との対立関係を回避しやすく、治療共同体を構築し、裁判所に退院を認めてもらうために協働作業で治療を進めていくというかたちを作りやすいと思われます。

多職種チーム医療(Multi-disciplinary Team: MDT)

一般精神医療においても多職種チーム医療の重要性は強調されていますが、医療観察法病棟では人員配置が一般の精神病床に比して圧倒的に多く、病床数にもよりますが、医師や看護師は5倍以上の人数が配置されます。精神保健福祉士や心理士、作業療法士も配置することが決められており、さらに当センターでは専従の薬剤師も配置されています。対象者毎に図6の内側の円のようにMDTが決められ、さらに社会復帰調整官をはじめとした院外の支援者も含めた拡大MDTによって治療·ケアが進んでいきます。

また、医療観察法病棟でのMDTにおいては、主治医の指示の下に治療·ケアが進んでいくという縦の構造ではなく、MDTのメンバー全員が横に繋がり、各自が意思決定するという構造が目指されています。そのためにはMDTの中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる「心理的安全性」が重要であるとされています。

 

図6 多職種チーム(Multi-disciplinary Team: MDT)

透明性の高い医療

医療観察法入院は司法判断による非自発的入院であるため、医療の透明性が重視されています。倫理会議や外部評価会議の構成員に外部委員が含まれており、外部の目を入れるシステムが作られています。指定入院医療機関同士が定期的にお互いの施設を訪問してチェックするピアレビューの制度も構築されています。ともすれば閉鎖的になりがちな精神医療に対して透明性の担保は非常に意識されています。

当センターもできるだけ開放的な病棟を目指したいと考えていますが、一方で医療観察法医療では一般精神医療よりもまして個人情報の問題に留意しなければならない側面もあり、そのバランスに注意する必要があるかと思います

また、厚生労働省の費用負担による「重度精神疾患標準的治療法確立事業」(通称、データベース事業)が行われており、全国の指定入院医療機関のさまざまな診療データが匿名化されて集約され、医療観察法データベースが構築されています。これにより各施設の診療成績が明らかにされています。

入院治療の流れ

図7 医療観察法入院医療の流れ

入院治療は図7のように急性期ステージ、回復期ステージ、社会復帰期ステージと進んでいきます。それぞれ、3ヵ月、9カ月、6ヵ月が目安とされており、全体で18ヵ月(1年半)での退院が目標とされています。しかし、実際には近年の入院期間は平均で2年半~3年程度まで長期化しており、問題となっています。

対象行為から指定入院医療機関に入院するまでには6ヵ月前後(長ければ1年以上)経過していることが多く、その間薬物療法なども行われているため一般的な臨床において急性期と呼ぶ時期は過ぎていることも少なくないですが、最初は急性期ステージと呼ばれ、急性期症状の改善、医療観察法入院医療の理解、治療関係の構築、基本的な生活リズムの回復などに主眼が置かれます。回復期ステージは最も多くの治療プログラムが行われる時期で、入院医療の中で最も重要なステージとも言えます。病識の獲得や内省の促進、社会復帰への動機づけや目標設定などが重点的に行われます。外出も取り入れられる時期ですが、医療観察法病棟では外出泊の際は必ずスタッフ2名以上が付き添うことになっており、無断退去の防止とともに、社会生活機能の評価も行われます。社会復帰期ステージでは退院後を見据えて自己管理やクライシスプランの作成などが行われ、外泊練習も行われます。

各種会議

医療観察法病棟では以下の5つの会議を実施することがガイドラインで決められています。

  • 治療評価会議

週1回開催される臨床カンファレンスで、医療観察法病棟の多職種スタッフで行われ、必要に応じて対象者本人や社会復帰調整官も参加しますます。原則、全入院対象者について評価や治療方針を検討し、運営会議に諮る案件について確認します。

  • 運営会議

原則月1回開催され、指定入院医療機関の管理者が主催し、医療観察法病棟スタッフが運営状況を報告し、運営方針を決定したり、対象者の状態報告と治療方針確認を行う会議です。急性期から回復期、回復期から社会復帰期へのステージ移行や外出泊、入院継続や退院の申し立てなどが検討されます。重大事故などの緊急事態発生時は緊急運営会議が臨時開催されます。

他の指定入院医療機関では病院長が主催することが多いですが、当センターは管理者が医療観察法病棟スタッフであるセンター長となるため、北海道大学病院本院から副病院長、精神科神経科診療科長、副看護部長が構成員として参加します。

  • 倫理会議

対象者に非自発的治療(隔離、身体的拘束、注射など)を行う際にその必要性について適否を検討したり、非自発的治療を継続している対象者に関する報告を行ったり、緊急で行った非自発的治療について事後評価したりする会議です。電気治療(mECT)やクロザピンの使用状況についても報告されます。精神医学の専門家の外部委員を1名以上招聘することになっていますが、当センターでは精神科医1名とソーシャルワーカー1名に参加していただきます。医療観察法病棟スタッフのほか、本院から精神科神経科診療科長と副看護部長も参加します。当センターでは定期的に月1回と必要に応じて追加で開催されます。

  • 外部評価会議

医療観察法病棟の運営状況や治療内容に関する情報公開を行い、その評価を受けることで運営の透明性を確保するための会議です。原則年2回開催され、外部評価委員として精神科医と弁護士、行政機関関係者に参加していただき、医療観察法病棟スタッフのほか、本院からは病院長、精神科神経科診療科長、看護部長、副看護部長、事務部長が参加します。

  • 地域連絡会議

地元関係機関との円滑な業務関係を支えるための会議で、原則年1回、必要に応じて追加で開催されます。地元の連合町内会長や警察署、消防署、行政機関関係者、北海道·札幌市の精神保健福祉センター長が参加し、医療観察法病棟スタッフのほか、本院から病院長、精神科神経科診療科長、看護部長、副看護部長、事務部長などが参加します。運営状況を報告、協議する場ですが、会議の場以外でも地域住民の意見を聞く恒常的な窓口となり、緊急事態発生時の連絡体制も地域連絡会議の構成員を中心に整備されます。

治療の実際

図8 入院治療の流れ・プログラム

図8は当センター入院中に行われる治療プログラムや面接などの流れですが、一つの例であり、対象者の特徴に応じてオーダーメイドされます。これはロードマップとして対象者とも共有します。心理士や医師による心理面接では、急性期ステージでは治療に対する動機付けや心理教育が行われ、生活史の丁寧な振り返りが行われます。心理士や看護師のサポートでセルフモニタリングも徐々に始まります。回復期ステージでは生活史や対象行為の振り返りが継続的に行われ、ケースフォーミュレーション(事例定式化、診立て)を徐々に深めていき、内省を促していきます。社会復帰期では退院後の生活を見据えてクライシスプランが作成され、最終的には自分自身で地域の支援者に対してケースフォーミュレーションやクライシスプランを説明できることを目指します。

治療プログラムは個別に行われるものと集団で行われるものがあります。全国の多くの医療観察法病棟で行われているものもあれば、当センター独自のものもあります。既存のプログラムを対象者に対して当てはめるのではなく、対象者に応じて柔軟に改訂したり、新たなプログラムを作ったりしながら最適化を図っていきます。現時点で当センターが準備しているプログラムとしては、心理教育、認知行動療法、認知リハビリテーション、メタ認知トレーニング、権利擁護講座、パラレル作業療法、運動療法、音楽療法、園芸療法、ミーティング(ユニット毎、全体)、WRAP(Wellness Recovery Action Plan: 元気回復行動プラン)、生活能力向上プログラム、対人交流技能訓練プログラム、身体的健康管理プログラム、アルコール学習会、アディクション学習会、違法薬物学習会、当事者研究、茶話会、歳時記、社会復帰講座、就労支援プログラムなどがあります。

家族に対するケアは当センターではプログラムとして月1回の頻度で通年で行っていく予定です。個別には担当MDTによるケアも行っていきます。家族は「加害者家族」となりますが、対象行為の被害者の半分弱が家族であるため同時に「被害者」であることも多く、さらには「被害者遺族」であることもあります。このような非常に難しい立場におかれる家族に対しては手厚いサポートが必要であろうと思われます。

MDTによる対象者の面接が最低でも月1回程度行われ、その都度現状の評価や知目標設定、治療方針の確認などが繰り返されます。MDTのみでのカンファレンスも定期的に開催され、後述する共通評価項目等を用いた包括的な評価が行われます。また、対象者と社会復帰調整官をはじめとした外部の支援者をまじえたCPA会議(Care Programme Approach会議)が2~3ヵ月毎に開催されます。退院後の指定通院医療機関や支援者をできるだけ早めに選定し、CPA会議には地域の支援者も参加していただくようにします。

エビデンスに基づいた薬物療法

医療観察法病棟での薬物療法の内容は原則として一般精神医療と変わりませんが、一般精神医療よりもエビデンスに基づいた薬物療法実施の必要性が強調されており、大量投与による過鎮静や薬剤性認知機能障害が少ないと思われます。また、治療抵抗性統合失調症に用いられるクロザピンが積極的に使用されています。我が国はクロザピンの処方率が非常に少なく、統合失調症医療の大きな課題とされていますが、医療観察法病棟では約3割の統合失調症患者にクロザピンが使用されています。しかし、施設間の格差が非常に大きく、均てん化を目指している医療観察法医療においては早急に克服すべき課題であると思われます。北海道大学病院精神科はクロザピンの治験段階から関わっており、当センターでもクロザピンは積極的かつ安全に使用していきたいと考えています。

共通評価項目

図9 共通評価項目

医療観察法医療においては、図9に示した共通評価項目を用いて対象者を包括的に評価します。19の中項目、46の小項目から成り、MDTで定期的に評価していきます。日々の診療録や看護記録なども共通評価項目を意識して記載されています。これは医療観察法鑑定や通院処遇でも使用され、医療観察法医療に関わる者の共通言語として用いられ、さらに全国のデータベース事業による統計解析により予後との関連も調査されています。

予後予測因子としての解析結果を基に平成31年に現在のものに改訂されました

「説明と理解」に努め、非自発的治療を最小化

一般精神医療においても非自発的治療を可能な限り回避するために努めることは当然ですが、医療観察法入院医療においてはマンパワーの多さもあって、行動制限最小化はより一層意識されています。隔離や身体的拘束の頻度は施設間の差があると思いますが、一般の精神病床よりも少なく、行われた場合もできるだけ短時間とするように心がけられています。隔離や身体的拘束は前述のように外部委員も参加する倫理会議で検討されますし、医療観察法データベースでも各施設の状況が明らかにされています。

一方、医療観察法病棟ではリスクマネジメントも非常に重要な側面です。暴力リスクや自殺リスクを適切に評価し、必要な介入は行わなければなりません。事故防止のためのリスクマネジメント(行動制限、監視、義務など)と社会復帰へ向けてのリカバリーの視点(主体性、自己決定、権利など)のバランスを常に検討しながら最適な治療·ケアを目指していく必要があります。

退院後を見据えた地域との連携

医療観察法入院医療のゴールは退院ではありません。医療観察法の目的が社会復帰の促進ですので、退院がスタートであると言えます。そして、退院後に安定的な日常生活を送ることができ、再他害行為が防止され、社会復帰が促進されるためには、入院中に行ったセルフモニタリングやケースフォーミュレーション、クライシスプラン、日々のスタッフの関わり方などが地域へしっかり受け継がれなければなりません。そのためにCPA会議を中心とした地域への引き継ぎをしっかり行っていきたいと思います。

北海道には4つの保護観察所(札幌、旭川、釧路、函館)がありますが、指定入院医療機関は当センター1ヵ所です。通常一つの保護観察所につき指定入院医療機関が一つありますが、当センターがカバーする範囲は保護観察所4つが必要な北海道という広大な土地です。海は渡らなくてよくなったとは言え、稚内や釧路、函館といった遠い場所にある指定通院医療機関に引き継がなければなりません。この距離の問題を克服するためにオンライン会議を活用していきたいと考えております。北海道大学病院個人情報保護委員会の承認のもとCPA会議や支援者の面会などもオンラインで実施できる準備を致しました。各地の指定通院医療機関や保護観察所、地域の支援者の方々にもオンラインの活用につきご協力いただけますと幸いです。

道内には100以上の指定通院医療機関があり、4つの保護観察所があり、医慮観察法対象者を支援していただく多くの機関があります。各機関同士の丁寧な引き継ぎを積み重ねていくことで、顔の見える関係で互いに高め合える連携を目指していきたいと思います。

大学病院初の医療観察病棟として

大学病院が指定入院医療機関を運営するのは当センターが全国初となります。指定入院医療機関の設置主体は国立病院、都道府県立病院、特定地方独立行政法人(公務員型)に限られており、国立大学病院はこれまでも設置可能でしたが、手を挙げる大学病院はありませんでした。さまざまな理由があるかと思いますが、総合病院である大学病院で医療観察法病棟を運営するために精神科に多くの人員を増やしたり、病棟を作る場所を確保することが困難であったり、コメディカルスタッフを含めた多職種チーム医療に慣れていないなどの事情が考えられます。実際、当センターも北海道大学構内に設置することが過去に繰り返し検討されましたが、実現できなかった経緯があります。

北海道大学病院精神科はコメディカルスタッフ(精神保健福祉士、心理士、精神科作業療法士、精神科薬剤師)の人数が全国の国立大学病院の中では随一であり、以前から多職種チーム医療を特色としていました。入院患者全員にこれら全ての職種の担当者が付くシステムで入院診療を行ってきました。精神保健福祉士を大学病院として日本で初めて雇用し、精神科作業療法の件数は長年全国一です。コメディカルスタッフの活躍により、認知リハビリテーションや復職支援プログラム、集団認知行動療法、デイケアクリニカルパスなど心理社会的療法を先駆的に取り組んできました。このため、医療観察法病棟での多職種チーム医療を実践していく素地を有していたものと思います。

大学病院が初めて運営するということで教育や人材育成、研究などへの貢献が期待されます。医育機関であり、研究機関である大学病院としての使命であると捉えています。医学部の卒前·卒後研修として初期研修医や専攻医、医学部生を積極的に受け入れていきたいと考えておりますし、精神科専門医取得後のサブスペシャルティとして司法精神医療を専門とする医師を養成していきたいと思います。看護師やコメディカルスタッフの実習生の受け入れも検討していきたいと思います。

北海道大学病院精神科は専門医制度の基幹施設として精神科専門医研修プログラムを整備しています。このプログラムには道内を中心に16の連携施設が参加しており、その大部分は指定通院医療機関になっています。北海道の地域精神医療を守るため北海道大学病院精神科は長年これらの連携施設に医師を派遣し続けてきました。つまり、これらの指定通院医療機関で勤務している医師は我々と一緒に働いてきた仲間ですので、より強力な連携を構築できるものと思います。

司法精神医療への関わりについて

当センターは北海道唯一の指定入院医療機関の役割を果たすことが第一ですが、医療観察法以外の司法精神医療にも関与していきたいと考えております。触法精神障害者の中で医療観察法が適用されるのはごくわずかであり、精神保健福祉法で処遇されたり、有罪となって実刑判決を受けて刑務所に入るケースのほうが大多数です。当センターは札幌刑務所や札幌拘置支所に隣接した場所にありますが、矯正施設の隣で指定入院医療機関が運営されるのも全国で初めてのことです。このことに対しては当初より賛否がありましたが、司法精神医学領域からは矯正精神医療との連携が期待されています。矯正施設には多くの精神障害者が入所しており、中には処遇困難な例や再犯リスクの高い例も含まれていますが、医療観察法病棟と比べると矯正施設における精神医療従事者は少ないのが現状です。一方で、矯正精神医療では再犯防止のためにさまざまな取り組みが積み重ねられてきており、歴史の浅い医療観察法の側からは学ぶことが沢山あるかと思います。札幌矯正管区とは今後連携していくことを確認し合っており、その取り組みはホームページでも今後ご紹介していきたいと考えています。

もう一つ、司法精神医療の中で力を入れていきたいと考えていますのは、精神鑑定の質の向上です。触法精神障害者の処遇を決める際に精神鑑定が行われることが多いですが、身体医学のように明確な客観的指標となる検査などがほぼ存在しない精神医学においては、鑑定医の主観によるところが大きく、鑑定結果の信頼性に疑義が生じることも少なくありません。実際に医療観察法病棟に入院した対象者の中には精神鑑定での診断名が変更されてしまうケースもあり、精神鑑定の質が均てん化されているとは言い難い状況です。今後、当センター医師が中心となって法曹界と合同で精神鑑定の研究会などを行っていく予定であり、精神鑑定の向上にも貢献したいと考えております。

診療実績

令和4年4月診療開始のため、今後定期的に診療実績、各種会議の開催状況などを掲載いたします。

業績

スタッフの業績として、論文、学会発表、講演などを定期的に掲載いたします。

アクセス

司法精神医療センター

住所:〒007-0802 札幌市東区東苗穂2条1丁目5-1
TEL:011-769-0423

本院との距離約4.5km

中央バス「本町2条8丁目」下車徒歩5分
JR札幌駅北口発 中央バス「東63番」→「本町2条8丁目」下車徒歩5分
地下鉄「環状通東駅」発 中央バス「東60番」又は「東62番」→「本町2条8丁目」下車徒歩5分

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