認知症の原因疾患を特定するためには症候学(症状を見て診断をつけていくこと)が最も大切です。しかしながら医師、患者さんご自身、患者さんのご家族にとって、集約的に多方面からの検査を行うことを望まれている方は多いのではないでしょうか。
このため、当科では関連各科と連携し、認知症をより詳しくとらえ、高度な医療を患者さんに提供する試みとして「物忘れ検査入院」を2010年9月から開始いたしました。
日本は全世界の中で最も高齢化が進んでいる国であり、2017年における65歳以上(高齢者)の人口は3515万人(全人口比27.7%)*にのぼります。この数は今後増え続けることが予想され、50年後には全人口比38.4%*に達し、この時点でも世界で最たる超高齢国家と考えられています。認知症はいろいろな原因疾患を内包する状態像ですが、現時点では高齢者の約15%*がこの状態であり、高齢者の中でも80歳以上を超える高齢者がさらに増えていく未来では、さらにその割合が増えていくと試算されています。一方、これらに対応する医療者数はあまりに少なく、その診断、治療はややなおざりになっている感は否めません。
(*「平成30年版高齢社会白書-内閣府」より)
物忘れ検査入院は当科が中心となり、他科と連携を取りながら、認知症の診断確定とその後の治療方針の提案を目的としています。かかりつけ医療機関(精神科に限らず、内科や脳外科など)で診断が確定できない場合や、患者さん・ご家族がより詳しい検査をご希望なさる場合が入院の適応になります。当院で受けていただいた各種検査・診察の結果から適切な診断を導き出し、治療方針の提案とともに、かかりつけ医療機関にお知らせすることになります。
上記のように、かかりつけ医療機関があり、検査入院後はそこで今後の治療を継続することが前提となります(特別な場合を除いて、当科への通院を継続することはできません)。このため、予約をいただく前にかかりつけ医療機関の主治医の先生にご相談いただき、かかりつけ医療機関から当院へ検査入院の予約を取得していただく必要があります。また、外来受診時、入退院時、脳神経内科受診時(火曜日)は家族の付き添いをお願いしております。
かかりつけ医療機関よりFAXでお申し込みいただきます。北海道大学病院ホームページの「医療機関からの紹介予約について」をご参照ください。予約申し込み書を確認し次第、当院かかりつけ医療機関へ、外来受診日と入院日の日程調整のご連絡をいたします。
当科から「認知症について」「もの忘れ検査入院について」の簡単な資料を患者さん、ご家族に提供いたします。予診票はある程度ボリュームがあるため記入には労力が必要となってしまいますが、正確な診断のための重要な情報になり、また外来受診時の患者さん・ご家族の負担を軽減するためにも、必ずご記入いただきますようお願いいたします。
当日は、ご家族に付き添っていただく必要があります。診察は問診、神経学的検査などを含みます。緊急な対応が必要とならないか確認するために、同日に頭部MRI(または頭部CT)を撮影いたします。外来受診の結果、何らかの理由(精神症状や認知機能低下が高度で検査入院に耐えられない等)のために検査入院の適応ではないと判断される場合には、他の方法をお勧めすることがございますのでご了承ください。
基本的には精神科開放病棟の個室に4泊5日の任意入院(本人の同意による入院)をしていただきます。ご希望により同病棟の有料特別室をご用意いたします。検査内容は多岐にわたりますが、現在のところほとんどの患者さんが日程をこなすことができています。検査データについては、脳血流SPECT・DAT-SPECT(核医学診療科)、認知機能検査(臨床心理士)、頭部MRI・MRA(放射線診断科・脳神経外科)、神経診察・髄液検査(脳神経内科)、脳波(当科てんかんグループ医師)などがあり、各分野の専門家の意見を統合して評価いたします。
専門家の意見、当科における所見を集約し、約2-4週間後に外来で、検査結果を説明します。まとめた内容を紙面にしてお渡しし、患者さん、ご家族に時間をかけて説明いたします。この際、ある程度の治療の方向付けなどをお話しする場合もあります。また、ご希望に添って介護保険など社会サービスに関する情報を当科ソーシャル・ワーカーから説明させていただくことも可能です。かかりつけ医の先生には入院で得られた全ての情報をまとめ、診断、治療方針など参考意見・情報を提供いたします。
すでに道内の多くの内科、脳神経外科、脳神経内科、精神科などの病院、クリニックから依頼を受け、お応えしてきております。患者さん、ご家族のご希望または日常診療で疑問が生じた場合など、気軽にご相談いただければ幸いです。